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知らないと損する|貸倒引当金の計上ルール
私たち税理士法人ゼロベースは、過去の前提や状況にとらわれない「ゼロベース思考」でお客様の無駄を削減し、お客様ご自身が本業に集中できる環境の構築を得意とする、伴走型の税理士法人です。
決算が近づいてくると、売上や経費だけでなく、会社が持っている「債権」の中身についても確認する必要があります。その中で、意外と見落とされやすいのが「貸倒引当金」です。
取引先に対する売掛金や貸付金は、帳簿上では会社の資産として計上されています。しかし、すべての債権を必ず満額回収できるとは限りません。取引先の経営状況が悪化したり、倒産したりすれば、代金を回収できなくなる可能性があります。
こうした将来の貸倒れによる損失に備えて、一定額をあらかじめ費用として見積もっておくものが貸倒引当金です。
特に中小企業の場合、一定の要件を満たせば、実際に貸倒れが発生していなくても、売掛金などの期末残高に業種ごとの割合を掛けて貸倒引当金を計上できる場合があります。
一方で、「売掛金の残高に一定割合を掛ければよい」と単純に考えるのも危険です。対象になる債権とならない債権があり、取引先の状況によっては通常の一括評価ではなく、個別に貸倒れの可能性を判断する必要があります。
今回は、経営者・経理担当者の方に向けて、貸倒引当金の基本から、法定繰入率、対象となる債権、中小企業の特例、決算前に確認しておきたいポイントまでご紹介していきます。
貸倒引当金は「一括評価」と「個別評価」で考える
貸倒引当金とは、売掛金や貸付金などについて、将来回収できなくなる可能性を見積もって計上する引当金です。
たとえば、決算日時点で1,000万円の売掛金が残っていたとします。
帳簿上は1,000万円の資産ですが、過去の実績などを考えると、そのすべてを回収できるとは限りません。そこで、一定のルールに従って将来発生すると考えられる貸倒損失を見積もり、貸倒引当金として計上します。
法人税上、貸倒引当金は大きく「一括評価金銭債権」と「個別評価金銭債権」に分けて考えます。
両者は計算方法が異なるため、まずは会社が持っている債権を正しく分類することが重要です。
一括評価は多数の債権をまとめて計算する
通常の売掛金や貸付金など、特定の取引先について重大な回収懸念が生じていない債権については、「一括評価金銭債権」としてまとめて貸倒引当金を計算します。
一括評価の場合、原則として過去3年間の貸倒実績などをもとに算出した「貸倒実績率」を使います。
しかし、一定の中小法人などについては、貸倒実績率の代わりに、税法で定められた「法定繰入率」を利用することができます。
たとえば、対象となる売掛金などが1,000万円あり、法定繰入率が1%であれば、「1,000万円×1%=10万円」というように、一定額まで貸倒引当金として計上することができます。
実際に取引先が倒産してから初めて対応するのではなく、一定の貸倒リスクを決算に反映させられる点が大きな特徴です。
回収懸念のある債権は個別に判断する
一方、すでに取引先の経営状態が悪化しているなど、具体的な回収リスクが発生している債権については、「個別評価金銭債権」として扱うことがあります。
たとえば、取引先が債務超過に陥り、その状態がおおむね1年以上続いているうえ、事業が好転する見通しがない場合などには、回収可能性を個別に検討することになります。
また、会社更生や民事再生など一定の手続きによって返済が長期間猶予される場合や、一定の法的整理手続きが始まっている場合なども、個別評価の対象となる可能性があります。
ここで重要なのは、「入金が少し遅れているから、好きな金額を貸倒引当金にできる」というわけではないことです。
債務者の財務状況、返済状況、担保、保証、事業の継続可能性などを踏まえ、税法上の要件に沿って判断する必要があります。
一括評価と個別評価では計算方法が異なりますので、決算時には「残高がいくらあるか」だけでなく、「誰に対する債権なのか」「回収状況はどうなっているのか」まで確認することが大切です。
法定繰入率は業種によって変わる
中小企業にとって確認しておきたいのが、一括評価金銭債権に対する「法定繰入率」です。
一定の中小法人などは、過去の貸倒実績から貸倒実績率を算定する代わりに、主たる事業ごとに定められている法定繰入率を選択できます。
現在の主な法定繰入率は、次のとおりです。
- 卸売業・小売業:1,000分の10(1.0%)
- 製造業:1,000分の8(0.8%)
- 金融業・保険業:1,000分の3(0.3%)
- 割賦販売小売業等:1,000分の7(0.7%)
- その他の事業:1,000分の6(0.6%)
なお、卸売業・小売業には一定の飲食店業なども含まれ、製造業には電気業、ガス業、水道業、修理業なども含まれます。
たとえば小売業なら1%が目安になる
たとえば、小売業を営んでいる中小法人が、決算日時点で対象となる売掛金などを3,000万円保有していたとします。
単純化して考えると、「3,000万円×1%=30万円」となり、30万円が貸倒引当金の繰入限度額の目安になります。
仮に法人税等の実効税率を30%程度とすれば、30万円の損金計上によって、その期の税負担に影響が生じることになります。
もちろん、貸倒引当金は永久に税金がなくなる制度ではありません。翌期以降には原則として前期の引当額を戻し入れ、新たな期末残高をもとに再計算します。
それでも、決算時点の債権残高を正しく整理し、利用できる制度を漏れなく適用することは、適正な決算を行ううえで重要です。
複数の事業を行っている場合は「主たる事業」を確認する
会社によっては、複数の事業を行っていることもあるでしょう。
たとえば、商品の販売とコンサルティング業務の両方を行っている場合、「小売業の1%なのか」「その他の事業の0.6%なのか」と迷うことがあります。
法定繰入率は、原則として法人が営む「主たる事業」の区分に応じて判定します。したがって、単純に最も高い繰入率を選択できるわけではありません。
特に事業内容が複数にまたがっている会社や、近年ビジネスモデルが変わった会社については、自社がどの区分に該当するかを決算前に税理士へ確認しておくことをおすすめします。
貸倒引当金を計上できる債権・できない債権
貸倒引当金を計算するときに注意したいのが、「決算書に載っている債権なら、すべて対象になるわけではない」という点です。
一括評価金銭債権には、売掛金だけでなく、貸付金や一定の未収金なども含まれます。一方、似たような勘定科目で処理されていても、対象にならないものがあります。
売掛金や貸付金などは対象になる
一括評価金銭債権には、代表的なものとして次のような債権があります。
- 売掛金
- 貸付金
- 未収の譲渡代金
- 未収加工料
- 未収請負金
- 未収手数料
- 未収地代家賃
- 一定の未収利息
- 他人のために支払った一定の立替金
- 一定の受取手形など
たとえば、決算日に請求済みでまだ入金されていない売掛金は、典型的な対象債権です。
また、「未収金」という勘定科目を使っている場合でも、その内容が事業上の資産の譲渡代金などで、すでに収益として計上されているものであれば対象になることがあります。
つまり、勘定科目の名前だけで判断するのではなく、その債権が「なぜ発生したのか」を確認する必要があります。
預金や敷金・保証金などは原則として対象外
一方、一括評価金銭債権に含まれない代表的なものには、次のようなものがあります。
- 預貯金やその未収利息
- 敷金、保証金、預け金など
- 手付金や前渡金
- 将来精算される旅費や交際費などの仮払金・立替金
- 一定の補助金や給付金の未収金
- 仕入割戻しの未収金など
たとえば、事務所を借りる際に大家へ支払っている敷金は、将来返還される可能性のある債権ではありますが、一括評価金銭債権には原則として含めません。
「貸借対照表に売掛金・未収金・貸付金・立替金などが載っているから、その合計に法定繰入率を掛ける」という計算をしてしまうと、貸倒引当金を過大に計上してしまう可能性があります。
同じ取引先に買掛金がある場合にも注意する
もう一つ見落とされやすいのが、同じ取引先に対して売掛金と買掛金の両方があるケースです。
たとえば、A社に対して売掛金100万円がある一方、A社から仕入れた商品の買掛金が60万円あるとします。
この場合、100万円すべてをそのまま貸倒引当金の計算対象とするのではなく、買掛金との関係を考慮する必要があります。
税務上、同一の相手先に売掛金や受取手形と買掛金などが存在する場合、買掛金等に相当する部分は「実質的に債権とみられない金額」として扱われることがあります。
そのため、貸倒引当金を正しく計算するためには、売掛金の総額だけを見るのではなく、取引先別の残高まで確認することが重要です。
中小企業だからこそ確認したい貸倒引当金の特例
貸倒引当金については、すべての法人が同じように法人税上の損金算入を行えるわけではありません。
一般的な中小法人では、一定の要件を満たすことで貸倒引当金制度を利用できます。
代表的には、事業年度終了時の資本金または出資金の額が1億円以下の普通法人が対象となります。
しかし、資本金5億円以上の大法人との完全支配関係がある法人や、一定のグループ通算法人などは対象から外れることがあります。
さらに、法定繰入率の特例については、所得金額など一定の基準による「適用除外事業者」に該当する場合には利用できません。
中小法人は「貸倒実績率」と「法定繰入率」を比較する
法定繰入率が利用できる中小法人の場合、「法定繰入率を使わなければならない」というわけではありません。
原則的な貸倒実績率による計算と、法定繰入率による計算を確認し、自社に合った方法を選択できます。
たとえば、過去に貸倒れがほとんど発生していない会社では、貸倒実績率が非常に低くなることがあります。
そのような場合には、業種別の法定繰入率を使ったほうが繰入限度額が大きくなるケースがあります。
反対に、過去に多額の貸倒れが発生している会社では、貸倒実績率による計算結果のほうが大きくなる可能性もあります。
「前期も法定繰入率だったから今年も同じ」というだけではなく、自社の状況に応じて確認することが大切です。
会計上計上しただけでは税務上の損金になるとは限らない
貸倒引当金でもう一つ重要なのが、「会計」と「税務」の違いです。
会社の決算書上、貸倒引当金を計上することと、その金額が法人税の計算上そのまま損金になることは同じではありません。
法人税上の貸倒引当金として損金算入するためには、対象法人に該当するか、対象債権か、繰入限度額の範囲内かなどを確認し、適切に会計処理・申告処理を行う必要があります。
法人税申告では、個別評価と一括評価についてそれぞれ貸倒引当金の損金算入に関する明細書も用意されています。
「決算書に貸倒引当金を計上したから、その全額が経費になる」と考えず、会計処理と税務処理を分けて確認する必要があります。
決算前にやっておきたい債権残高の洗い出し
貸倒引当金は、決算が終わった後に考えるよりも、決算前の段階で債権残高を整理しておくことが重要です。
特に売掛金が多い会社では、決算書の残高だけを確認するのではなく、取引先別に内容を見ていくことをおすすめします。
売掛金・未収金・貸付金を取引先別に確認する
まず確認したいのが、売掛金、未収金、貸付金などの期末見込み残高です。
会計ソフト上の残高を取引先別に確認し、
- すでに入金されているのに消込処理がされていないものはないか
- 請求書の金額と帳簿残高が一致しているか
- 長期間残ったままの債権はないか
- 同じ取引先に買掛金や支払債務がないか
- 貸倒引当金の対象外となる債権が混ざっていないか
といった点を整理していきます。この作業は貸倒引当金のためだけではありません。
売掛金の中に入金済みのものが残っていれば、月次決算や資金繰りの数字そのものが正しく見えなくなります。
「決算で税金を計算するため」ではなく、「会社が実際にいくら回収すべきお金を持っているのか」を把握するという意味でも、債権残高の整理は重要です。
長期間入金されていない債権を放置しない
決算前には、長期間動いていない売掛金にも注目しましょう。
「担当者が連絡すると言っていたから、そのままになっている」「少額なので、毎年売掛金として繰り越している」という債権は意外と少なくありません。
しかし、長期間入金されていないということは、取引先に何らかの事情が生じている可能性があります。
単なる入金漏れなのか、請求内容に争いがあるのか、取引先の資金繰りが悪化しているのかによって対応は変わります。
場合によっては個別評価の貸倒引当金を検討できる可能性がありますし、すでに回収不能が明らかになっているのであれば、「貸倒損失」として処理すべきケースもあります。
貸倒引当金と貸倒損失は同じものではありません。
貸倒引当金は、将来発生する可能性がある損失を見積もるものです。一方、貸倒損失は、法的な債権切捨てや全額回収不能など一定の事実が発生した場合に、実際の損失として計上するものです。
古い売掛金を毎年そのまま繰り越すのではなく、「本当に回収できるのか」という視点で確認することが大切です。
決算直前ではなく月次で債権管理を行う
貸倒引当金の計算自体は決算時に行いますが、債権管理は決算直前だけ行えばよいものではありません。
売掛金が毎月発生する会社であれば、以下を日頃から管理しておくことが理想です。
- 請求金額
- 入金予定日
- 実際の入金日
- 未回収額
- 滞留期間
未回収の売掛金が増えている会社は、損益計算書上では利益が出ていても、現金が増えていないことがあります。
たとえば、1,000万円を売り上げても、その代金を回収できなければ会社の銀行口座には1,000万円は入ってきません。
つまり、債権管理は税務だけではなく、会社のキャッシュフロー管理そのものです。
貸倒引当金を計算することをきっかけに、取引先ごとの回収状況まで確認できる体制を作っておくことが、会社の資金繰りを守ることにもつながります。
まとめ|貸倒引当金は決算前の債権整理から始める
貸倒引当金は、単に「売掛金に一定割合を掛けて経費にする制度」ではありません。
通常の売掛金などをまとめて評価する一括評価と、回収懸念のある債権を個別に判断する個別評価があり、一括評価についても貸倒実績率と法定繰入率という異なる計算方法があります。
また、法定繰入率は業種によって異なり、そもそも貸倒引当金の対象になる債権とならない債権もあります。
そのため決算前には、売掛金や未収金、貸付金などを取引先別に整理し、長期間回収できていない債権や、同じ取引先に対する買掛金などがないかを確認することが大切です。
特に中小企業では、法定繰入率を活用することで、実際の貸倒れが発生していなくても、税法上認められる範囲で将来の貸倒リスクを決算に反映できる可能性があります。
一方で、適用できる法人や対象債権、繰入限度額には細かなルールがあります。「前期と同じ処理で大丈夫だろう」と判断せず、毎期の債権残高と会社の状況を確認することが重要です。
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